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カナダとスコットランドの歴史を学ぶきっかけにも
今日は移民の国、カナダならではの『赤毛のアン』のおもしろさについて書きます。マシューとマリラはスコットランド系の移民2世です。二人のお母さんがスコットランドから祖国の花スコッチローズをたずさえて渡ってきたと『赤毛のアン』第37章に書いてあるのです。では主人公アンは、スコットランド系でしょうか? モンゴメリは明確には書いてないのですが、多分そうではないかと思われます。何しろアンの生まれ故郷は、第5章に書いてあるようにノヴァスコシア州。プリンスエドワード島州の南に実在する州で、ノヴァスコシアとは「新しいスコットランド」という意味のラテン語です。この州はスコットランド貴族が統治した歴史があり、スコットランド人が多く入植しました。アンのおじいさん、ひいおじいさんも、スコットランドから移民してきたかもしれませんね。 さらに、古典文学を愛するおしゃまなアンは、物語のなかでいろいろな英米詩を引用しているのですが、とくに第5章! アンがほとんど暗記していると並べあげる詩をロンドンの英国図書館で調べたところ、ほとんどがスコットランド文学でした。また学校では、スコットランド女王メアリの悲劇の詩を朗読し、スコットランドの国民的作家サー・ウォルター・スコットの代表作の数々を話しています。またアンは、窓辺のゼラニウムをスコットランド語で「ボニー」と名づけ、さらに続編の『アンの青春』では、スコットランドのお菓子「ショートブレッド」を好み、鶏肉をブレッド・ソース(スコットランド風ホワイトソース)で料理し、スコットランド伝統の妖精についても話しています。 というわけで、『アン』には、新大陸カナダのすがすがしく清新な雰囲気とともに、旧大陸の影響も色濃く漂っているのです。たとえばクリスマス。『赤毛のアン』『アンの青春』『アンの愛情』には、クリスマスに教会で礼拝したり、自宅で七面鳥やクリスマスプディングで祝ったりするシーンがありません。『赤毛のアン』で、マシューがアンにすてきなパフスリーブのドレスを贈りますが、これは、持たざる者に自分のものを惜しみなく分け与えることで二人とも心が満たされる、という「隣人愛(キリスト教の基本理念)」の精神からです。マシュー、マリラ、アンが、長老派教会へ通っていますが、これはもともとスコットランドの国教で、新大陸でもマシューやマリラのようなスコットランド系が信仰したプロテスタントです。この長老派は、元々はクリスマスを認めない教義で、スコットランド議会でクリスマス禁止令を出したのです。 理由は2つあります。1つは、イエスは12月25日に生まれたとされていますが、聖書にその日付はどこにも書いてありません。この日にちは、キリスト教が普及する前のヨーロッパにいたゲルマン人たちの土着の祭日であり、キリスト教を布教するために後でイエスの誕生日に決めたのです。そのため、キリスト教の教義と聖書に厳格な長老派は、クリスマスを異教徒の祭日と定め、祝うことを禁止したのでした。 2つめの理由は、昔のカトリックはクリスマスにワインを飲み、騒わぎ、ごちそうを食べましたが、質実剛健な暮らしを守る長老派は、彼らを信仰心を忘れて堕落した人々と厳しく批判しました。たしかにマリラの暮らしは食事も服も質素で、華美をいましめ、禁酒禁煙の信仰生活をしています。ただし、長老派のクリスクス禁止も時代とともにゆるやかになり、『赤毛のアン』(1908年)が出てから約30年後に発行された後のアン・シリーズでは、初めてツリーが登場します。モンゴメリは長老派教会の牧師の奥さんでしたから、なおさらクリスマスが書きにくかったのかもしれませんね。 わたしはこれまでに、『赤毛のアン』の舞台プリンスエドワード島州キャベンディッシュ、『アンの青春』の舞台となった島内ビデフォード、『アンの愛情』の舞台ノヴァスコシア州、モンゴメリが結婚してから移り住んだオンタリオ州トロント付近など、カナダ各地へ行きましたが、『アン』翻訳のためにスコットランドもたびたび取材に行きました。マシューが愛した母の祖国のバラ、スコッチローズも探し、花の写真を撮っていると、なぜかジーンとして涙が出ました。 移民の国カナダの人々に、それぞれの祖国の文化が豊かに継承されていることをあらためて思い、胸が熱くなったのです。そして翻訳のおかげで、カナダとスコットランドの歴史を学ぶ機会を与えていただき本当に良かったと思っています。 さて、今日の問いかけ文は、「『赤毛のアン』のなかのスコットランド文化をご存じでしたか?」です。明日もどうぞよろしくお願い申しあげます。
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作家 翻訳家 |
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